「人間の尊厳のために」不条理に抗う力を原動力に、国連職員として人々の命と生活を支える。
外国語学部 英米学科 1994年3月卒業
灘本 智子さん 国連薬物犯罪事務所(UNODC) 南アジア・東アジア・太洋州課
南山大学外国語学部卒業後、国連地域開発センター(UNCRD)勤務。米英で修士号を取得後、国際開発分野でガバナンス強化とジェンダー平等推進に従事。世界銀行・UNDP・JICAを経て、2019年より現職。(2026年1月現在)
現場を知り政策を動かす、国連職員の仕事
国連をはじめ、世界銀行やJICAなど複数の国際機関で働く中で、私が常に意識している軸は「人権」と「人間の安全保障」です。人々の命や生活、尊厳を脅かす要因を取り除き、自立への道を支えること―それが私の使命だと考えています。現在はオーストリア・ウィーンの国連薬物犯罪事務所で、東南アジア諸国の支援を担当しています。最近は、国連サイバー犯罪条約の採択に伴い、児童へのオンライン上の性的虐待を防止するプロジェクトにも携わっています。特に、女性の司法関係者を育成し、女性や子どもの被害者が安心して声を上げられる社会づくりを目指しています。直近では、東南アジアと大洋州の各国の女性警察官や裁判官、検事を招き、サイバー犯罪への対応方法を共に学ぶネットワーク・ワークショップを実施しました。加害者と被害者が異なる国にいる複雑な事例も多く、国家間の連携は不可欠です。そのため、UNODC東アジア・大洋州地域事務所の専門家とチームを組み、ワークショップを通じて参加者一人一人が自信を持って各国で役割を果たせるよう能力強化の支援を行いました。この経験から、国際機関が取り組む意義や自分の役割の重要性を改めて実感しています。
国際機関の仕事には、現地で相手国政府や人々を直接支援する「現地勤務」と、国際政策や制度を整える「本部勤務」があります。現地勤務は国家政策や人々の生活へのインパクトを直接感じられる一方で、国際政策レベルでの影響は限定的です。本部勤務は各国の現場での成果を実感しにくい面がありますが、大きな国際的な政策変化を生み出す力を持っています。現在は本部勤務ですが、前職でバングラデシュやカンボジアなど現地勤務の経験があったからこそ、現場の声をプロジェクトの設計に反映させつつ、国際的な協働も促進することができました。
さらに、最近特に喜ばしく思った出来事としては、組織内だけでなく、担当国の外交官の方からも「プロジェクトを一緒に進めましょう」と声をかけていただけたことです。現地の方々の生活を守る取り組みが、国や文化を越えて仲間を増やし、協働の輪を広げている—その実感こそが、私にとって何よりの励みになっています。
南山大学で学んだ、人の尊厳を大切にする心
人々の命と生活を支える仕事に携わりながら、改めて南山大学の教育モットー「人間の尊厳のために」との深い繋がりを感じています。式典やキリスト教の授業などで、何度も耳にしたこの言葉は、私にとって学びの指針であり続けました。
当時は「英語を使って世界の人の役に立ちたい」、「困っている人を助けたい」という漠然とした気持ちを抱いていましたが、国際機関での経験を通じて、「人権の尊重や人間の安全保障の実現のために力を尽くす」という、より強い想いに変化していったと思います。今思えば、南山での4年間は、他者を受容する姿勢を育む時間でもありました。キリスト教文化に触れ、国際色豊かなキャンパスで学んだ日々が、共感する心や対話する力を育てました。
国連の職場では、国籍も宗教も価値観も異なる人々が協働します。仕事の進め方や考え方も異なる中で、他者を尊重しつつ自分の意見も率直に述べる「アサーティブ(自己主張しつつ相手も尊重する)」なコミュニケーションが欠かせません。相手の話に真摯に耳を傾け対等に意見を述べることの大切さとともに、南山で培った力が今の私を支えているのだと実感しています。
不条理の中に希望を見出し、未来を切り開いていく
戦争や犯罪、貧困、差別の犠牲になるのは、子どもなどの決まって弱い立場の人々です。不条理な現実を前に、怒りや悲しみを感じることも少なくありません。だからこそ、「現状を変えたいという意思」が私の原動力となっています。そして同時に、絶望の中でも希望を見出す楽観的な思考も大切です。希望を手放さずに不条理に立ち向かうため、様々な施策の企画・実施や現場での支援に努め、努力を積み重ねる。その繰り返しこそが、国連職員として生きるということだと思います。
国連で働く条件は職種により異なりますが、修士号と一定の実務経験があると有利です。私も大学卒業後は名古屋の国連地域開発センターで勤務し、専門職を目指して米国の大学院で学びました。その後、JPO※としてバングラデシュへ赴任し、以降様々な開発プロジェクトに携わってきました。道のりは決して平坦ではありませんが、一歩ずつ積み重ねていけば必ず扉は開かれます。
そして、国連で活躍するためには、知識や語学力を磨き続ける姿勢が求められます。高校生の皆さんには、英語に限らず第二外国語の習得にも挑戦し、途上国など多様な地域に訪れて自分の世界を広げてほしいと思います。そして、どんな分野であれ、自分の「好き」や「関心」をとことん追求してください。その経験が、やがて国際社会で生きる力になるはずです。
※JPO(Junior Professional Officer):外務省が実施する派遣制度。国連職員を目指す若者を対象に、政府が経費を負担して国際機関での職務経験を提供する。
※この記事で述べられている内容は、個人の経験や考えに基づくものであり、国連や所属機関の公式な見解を示すものではありません。