失敗を恐れない決断力と行動力で、老舗バイオリンメーカーの音色と未来を守る。
経済学部 経済学科 2011年3月卒業
小野田 祐真さん 鈴木バイオリン製造株式会社 代表取締役社長
経済学部卒業後、トヨタグループ会社や外資系企業で原価計算・M&A・財務戦略に携わる。2019年、鈴木バイオリン製造を事業承継し、経営再建に着手。高品質でありながらもリーズナブルで分かりやすい価格設定や海外展開など、独自のブランド戦略によって事業再生を成し遂げた。2021年に同社代表取締役社長に就任。
老舗バイオリン製造会社の再生の道筋を描く
現在、創業130年を超える老舗バイオリン製造会社の代表取締役社長を務めています。2019年に経営を引き継いだ時、経営は厳しい状況にありました。長年の経営不振で金融機関からの評価は低く、支援も容易には得られない状況の中、打開策を探っていく日々でした。私はもともと音楽業界にいたわけではありません。経済学部では主に金融論を学び、新卒で入社したトヨタ紡織の本社経理部では原価計算や利益管理に従事。3年目からはヨーロッパの子会社でM&A実務を経験するなど、数字に向き合う毎日を過ごしていました。その後、外資系企業で財務を担当していた時、経営再建支援の案件として鈴木バイオリン製造を紹介されました。
当初、企業名は伏せられていましたが、3歳からバイオリンを習っていた私にはすぐにこの会社のことだと分かりました。「スズキ・メソード」という独自の教育プログラムで知られ、バイオリン奏者でスズキの名を知らない人はいません。財務内容の分析や経営計画の策定を進めるうちに、創業家一族から事業を継承することになりました。前述の通り、金融機関からの信用が低い状態からのスタートでしたが、そこから回復させるには結果を出すしかないと考え、作成した経営改善計画を上回る業績を目指して奔走しました。最初に着手したのは、部品の不良率や取引条件の悪さが目立っていた仕入れ部門です。私は職人を連れて海外の仕入先を一軒ずつ訪ね、細かい仕様の確認や条件の再交渉を直接行いました。仕入状況が改善されることで生産性も向上し、現在では利益も確保できるようになりました。少しずつではありますが、社員に還元できる体制も整えることができました。
1世紀以上にわたって日本のバイオリン製造を支えてきた「鈴木バイオリン」の音色を絶やさないために、歴史に裏付けられた確かな品質を世界に発信することが私の掲げる大きな目標の一つです。最近は若手職人の雇用と育成にも着手しています。日本のものづくりの技術を継承し、文化の発展に貢献したいと考えています。
数字の読み方や経済の理論を、徹底的に身につけた大学での日々
大学時代に培った知識は、現在の会社経営を支える大切な基盤になっています。1・2年次にはミクロ経済学、マクロ経済学、経済数学といった基礎知識を学び、また、経済学部の必修科目だったビジネス英語にも力を入れました。専門用語の多さに苦戦しながらも、ネイティヴの先生の授業を通して養った英語力は、前職でのドイツ勤務や海外との取引にも役立っています。3年次から所属した金融論ゼミでは、為替変動が企業収益に与える影響や、資金調達や投資判断に必要なリスク管理について研究しました。
これらの知識は、財務戦略や経営計画を立てる上で欠かせない視点となり、現在の経営判断にも大きく影響しています。また、会計士講座という学内の課外活動にも参加し、自主的に簿記資格を取得しました。そこで出会った会計士や税理士を目指す先輩方との繋がりは今も続いており、そのうちの一人には、現在の会社の顧問税理士として支えていただいています。
ビジネスで大切なのは、挑戦・失敗・成長を重ねること
経営のやりがいは、自分の判断と行動が会社の未来に直結するところにあります。決めた施策が社員の給与や生活にも影響するため、緊張感や重責は常にありますが、そのぶん成功に導けた時の達成感も格別です。だからこそ、あらかじめリスクを想定し最悪の事態に備えた上で、実行に移す際は徹底して前向きな姿勢を貫くようにしています。
また、ビジネスの現場で感じるのは「失敗のない成功はない」ということ。10回行動を起こせば、たとえ9回失敗に終わっても、残りの1回で成功するかもしれません。2025年の大阪・関西万博の関連イベントでは、世界的バイオリニストの葉加瀬太郎さんと奏者として共演するという、かつては想像もできなかった舞台に立つ機会にも恵まれました。この経験もまた、幾多の挑戦と失敗の積み重ねの先にあったものだと感じています。今思えば、学生時代は「安全な失敗」が経験できる貴重な時期でした。私が所属していたゼミでも、先生は適切な距離から学生を見守り、リカバリー可能な失敗を経験できる環境を与えてくださいました。
高校生の皆さんには、「怖がらずに挑戦すること」を大切にしてほしいと思います。色々なことに挑戦し、たとえ失敗しても経験として受け入れることで、将来の自分を大きく成長させることができます。そのための環境が整った南山大学で、自分のやりたいことに思い切り取り組んでください。